事件番号:JP2022-0002

                    裁 定

  申立人: (氏名/名称)ATHENA COSMETICS, INC.
  (住所)1838 Eastman Ave., Suite 200 Ventura CA 93003
  (United States of America)
  代理人:弁理士 早津 貴久
  登録者:
  (氏名/名称)榊原 和美(Kazumi Sakakibara)
  [公開連絡先]
  (名前)GMOペパボ株式会社 [代理公開]
  (住所)福岡県福岡市中央区天神2丁目7-21
      Tenjin Prime 8F
  代理人:なし

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「REVITALLASH.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「REVITALLASH.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
  申立人は、申立の根拠として、以下の商標権を保有している。
・国際登録第918631号「REVITALASH」(第3類「まつげ用化粧品))(甲第3号証)
・国際登録第1189337号「REVITALASH」(第3類「まつ毛用製品 他」)(甲第4号証)
・国際登録第1196801号「§RevitaLash」(第3類「まつ毛用製品 他」)(甲第5号証)
・国際登録第1488174号「§REVITALASH\COSMETICS∞RL」(第3類
「まつ毛用製品 他」)(甲第6号証)
  また、申立人は、日本において、「REVITALASH」のカタカナ表記に該当する以下の商標権
を保有している。
・登録第5254649号「リバイタラッシュ」(第3類「まつげ用化粧品 他」)(甲第7号証)
 なお、申立人は、「REVITALASH」「リバイタラッシュ」について、以下の出願手続を完了
している。
・商願2021-150207号「REVITALASH」(第44類「まつ毛の美容 等」)(甲第8号証)
・商願2021-151341号「リバイタラッシュ」(第44類「まつ毛の美容 等」)(甲第9号証)
 また、申立人は、JPドメインとして「REVITALASH.JP」を保有している(甲第10号証)。
 登録商標「REVITALASH」は、日本において継続的に使用されている(甲第11号証)。
https://revitalash-japan.com/
 申立人は、「REVITALASH」に関し、世界中で100件以上の商標権を保有し、かつ、継続
的に使用している(甲第12号証)。
 申立人の商標である「REVITALASH」は、2006年2月の商品販売開始以降、世界各国で広
く使用され、申立人の業務に係る商品「まつ毛の美容液」を表示するものとして需要者の
間に広く認識されており、世界的な著名商標となっている。
 申立人の商標「REVITALASH」は、その著名性、顧客吸引力の高さ故に、世界中で剽窃や
フリーライドが後を絶たず、日本においても、直近では2021年に、不正の目的で登録され
た「REVITALASH.JP」につき、移転の裁定が下された事件がある(事件番号:JP2021
-0004)。
 申立人の商標「REVITALASH」は、アルファベット文字10文字という長い構成からなる
ところ、登録者のドメイン名中「REVITALLASH」は、申立人の商標に、商標の識別上重要で
はない中間位置において「L」の一文字を追加したに過ぎないため、以下にも示すとおり、外
見上区別が付かないほどに類似している。
             「REVITALASH」  「REVITALLASH」
 この点は、URLで比較した場合も同様で、以下の通り、外観上区別が付かない程に類似
している。
        http://revitalash.jp/  http://revitallash.jp/
 また、称呼の比較においても、申立人の商標「REVITALASH」から生じる称呼「リバイタ
ラッシュ」は、8音という長い音構成からなるのに対し、登録者のドメイン名中
「REVITALLASH」から生じる称呼「リバイタルラッシュ」は、申立人の商標に、商標の識別
上重要ではない中間位置において、「ル」の音が付加されているに過ぎず、聴別し得えない
程に類似している。
         「リバイタラッシュ」 「リバイタルラッシュ」
 さらに、日本においては、「リバイタラッシュ」のことを、誤って「リバイタルラッシュ」
と認識しているユーザーもいる実情からすると(甲第13号証)、両者の混同は免れない状
況である。
 以上の通り、登録者のドメイン名が、申立人が権利及び正当な利益を有する商標と混同
を引き起こすほど類似していることは明らかである。
 一方、登録者は、申立人の商標「REVITALASH」を模倣した当該ドメイン名に関係する商
標権や使用権または正当な利益を何ら有していない。
 ここで、「REVITALASH」は、英単語「revitalize」と「lashes」を組み合わせて申立人が
作り出した、識別力の強い造語である。
 そもそも“REVITAL”という既成語は存在せず、また、“LASH”についても「lashes」ま
たは「eye lashes」のように、複数形で表すのが通例であるため、「REVITALASH」の模倣な
くして、「REVITALLASH」が自然発生的、偶発的に採択されることはあり得ない。
 そして、登録者は、申立人の商標「REVITALASH」の著名性にただ乗りするため、申立人
の使用商品である「まつ毛の美容液」と極めて関連性の強い役務である「まつ毛の美容」
に関して、当該ドメイン名を不正に使用している(甲第14号証)。
              http://revitallash.jp/
 即ち、登録者は、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイト、または、それらに登
場するサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混
同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトに誘
引するために、当該ドメイン名を使用しているのである。
 なお、申立人は、2021年12月6日付で商標権侵害等に係る警告状を送達したところ、
登録者は、2021年12月9日午前10時54分頃に申立人代理人に電話をよこし、あたかも
「REVITALASH」など知らないかのような白々しい芝居を打った上で、「電話内容は録音した」
などと意味不明な発言を行っており、甚だ不審な人物であることを確認した。
 また、登録者は、2022年1月7日付の代理人による回答書において、「争いは本意では
ないため新たな商標を使用する」旨を述べておきながら(甲15号証)、裏ではこれに反し、
本件とは別の不正登録ドメイン名で、姑息にも今度は「リバイタラッシュ」から中間音の
「タ」を削除したに過ぎない「リバイラッシュ」に名称を変えて、「まつ毛の美容」に係る
サービスへの誘引を行っていることが判明した(甲第16号証)。
           https://revital-lash.business.site/
          「リバイタラッシュ」 「リバイラッシュ」
 かかる事実から、登録者「榊原 和美(株式会社Platinum 代表)」は、飽くまで
著名商標「REVITALASH」「リバイタラッシュ」にフリーライドし、不正の目的、悪意、故意
に基づく商標権侵害行為並びに不正競争行為によって事業を行う、遵法意識もモラルも無
い不逞者であることがより明白となった。
 ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメイン名に
関係する正当な利益を有しておらず、ドメイン名は不正の目的で登録または使用されてい
る。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 A 登録者の不答弁の効果
 (1) 本件において、登録者は、答弁書を提出していない。
 (2) 本手続には弁論主義は適用されないから、本件パネルは、登録者が答弁書を提
出しないという事実により申立人の主張事実等について擬制自白の拘束力が生じるものと
することはできず、紛争処理方針及び手続規則の定める要件が充足されているか否かの判
断を、申立人の陳述、提出した証拠、条理等に基づいて行わなければならない、というべ
きである(手続規則第15条(a)等)。
 ただし、手続規則は、「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない
限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する(手続規則第5条
(f))。
 したがって、下記処理方針第4条a.の(i)ないし(iii)の各号に関する申立人の主張・立
証が明らかに不十分であると判断される例外的な事情がない限り、申立人の主張に従い、
本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当である。
 (3) 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用すべき原則につい
てパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づ
き、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、並びに条理に従って、裁
定を下さなければならない。」。
 そして、処理方針第4条a.は、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないこと
を指図している。
 (i)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同
   一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (ii)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (iii)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

 B 処理方針第4条a.の各号についての本件パネルの判断
 (1)「(i)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表
示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること」
  登録者の本件ドメイン名は、「REVITALLASH.JP」であり、ローマ字大文字体で横書きさ
 れている。そして、本件ドメイン名「REVITALLASH.JP」のうち、「JP」の部分はトップレ
 ベルドメインであって国別コードの日本を意味し、使用主体が属する国を表示させるも
 のにすぎないから、本件ドメイン名において識別力を有する要部は、セカンドレベルド
 メインである「REVITALLASH」の部分であると認められる。
  一方、申立人は、国際登録第918631号「REVITALASH」(第3類「まつげ用化粧品」)
 (甲第3号証)、国際登録第1189337号「REVITALASH」(第3類「まつ毛用製品 他」)(甲
 第4号証)、国際登録第1488174号「§REVITALASH\COSMETICS∞
 RL」(第3類「まつ毛用製品 他」)(甲第6号証)の保有者であり、申立人の有するか
 かる商標権(以下「申立人商標」ともいう。)の構成ないしその要部は、ローマ字大文字
 体で「REVITALASH」と横書きされている。そして、申立人商標は申立人の「まつ毛の美
 容液」の商品を表示する標章として日本において継続的に使用されていることが認めら
 れる(甲第11号証等)。
  ドメイン名が「商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似している」か否
 かの判断に当たっては、当該ドメイン名の識別力のある部分と「商標その他表示」の識
 別力のある部分とを比較すべきである。
  そこで、本件ドメイン名の識別力を有する要部である「REVITALLASH」の部分と、申立
 人商標の識別力を有する要部である「REVITALASH」の表示を比較する。
  申立人商標中「REVITALASH」は、アルファベット大文字10文字という長い構成から
 なるところ、登録者のドメイン名中「REVITALLASH」は、申立人商標の要部に、中間位置
 において「L」の大文字一文字を追加したに過ぎないため、外観上類似している。
  また、称呼において、申立人商標中「REVITALASH」から生じる称呼「リバイタラッシ
 ュ」は、8音という長い音構成からなるのに対し、登録者のドメイン名中「REVITALLASH」
 から生じる称呼「リバイタルラッシュ」は、申立人の商標に、中間位置において「ル」
 の音が付加されているに過ぎず、また、「ラッシュ」の前で語が切れる点でも両者は共通
 しており、類似していると解される。
  さらに、申立人商標は、申立人の業務に係る商品「まつげ美容液」を表示するものと
 して需要者の間に広く認識されていると認められるため(甲第11号証等)、申立人商
 標からは申立人の「まつげ美容液」の商品に関する観念が生じると解されるところ、造
 語である本件ドメイン名からは、少なくともこれと異なる観念が生じることは認められ
 ない。
  以上より、本件ドメイン名と申立人商標その他表示とは、全体として、混同を引き起
 こすほど類似している、というべきである。

 (2)「(ii)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していない
こと」
    本件においては、登録者の本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益の有無
    に関わる事実として、以下の事実が認められる。
  ① 申立人商標は、辞書等に掲載されていない造語であること。
  ② 本件ドメイン名の要部「REVITALLASH」は、辞書等に掲載されていない造語であり、
    上記(1)で述べたとおり、申立人商標と類似すること。
  ③ 本件ドメイン名の登録年月日は2009年7月30日であり(甲第1号証)、また、
    登録者が開設するウェブページ上で事業を営む登録者の会社(株式会社Platinum)
    の成立は2011年11月1日であるのに対し(甲第2号証)、申立人所有の
    「REVITALASH」に係る国際登録第918631号の国際登録日は2007年7月
    3日であること(甲第3号証)。
  ④ 登録者は、申立人の商品である「まつ毛の美容液」と極めて関連性の強い役務であ
    る「まつ毛の美容」に関して、本件ドメイン名を使用していること(甲第14号
    証)。
  ⑤ 登録者が代表取締役を務める株式会社Platinumは、「REVITAL LASH(リバ
    イタル ラッシュ)」とする店舗名で「まつ毛の美容」に関する事業活動を行ってい
    たこと(甲第14号証、同第15号証、同第16号証)。
  ⑥ 登録者が代表取締役を務める株式会社Platinumは、2021年12月6
    日付けの申立人による警告書を受けて、2022年3月末日までに登録者はその
    商標の利用を停止する旨を回答し(甲第15号証)、「REVITAL LASH(リバイタル
    ラッシュ)」との店舗名が「REVI LASH(リバイ ラッシュ)」に変更されていること
    (甲第16号証等)
  ⑦ 登録者は答弁書を提出していないこと。
 以上の事実からすれば、登録者は、本件ドメイン名の要部「REVITALLASH」に類似する
「REVITAL LASH(リバイタル ラッシュ)」との店舗名で事業活動を行っていたものの、そ
の名称の採用自体も、申立人商標を模倣したものと解するのが合理的である。
 したがって、登録者が、本件ドメイン名「REVITALLASH.JP」の登録についての権利又は
正当な利益を有しているとは認めることができない。

 (3)「(iii)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること」
 登録者は、答弁書を提出していないので、登録者が本件ドメイン名「REVITALLASH.JP」
の登録を取得した目的を直接知ることはできない。しかしながら、上記5B(2)①~⑦
で認定した事実に照らせば、申立人が主張するとおり、申立人の商品が登録者の製品と関
連あるようにしてインターネット上のユーザーを登録者自らのウェブサイトに誘引するた
めにドメイン名を不正目的で取得したものと考えるのが合理的である。
 なお、甲第15号証には、登録者が代理人を通じて、2022年3月末日までに新たな
商標の使用を開始することを述べているが、現時点において本件ドメイン名の使用停止の
事実を確認することができず、また、少なくとも登録者は、本件ドメイン名を取得・使用
して申立人の商品と混同を生じるおそれのある商標使用を行っていたものと認められる。
換言すれば、本件においては、当該ドメイン名の登録または使用を不正の目的であると認
めることができると定めたJPドメイン名紛争処理方針第4条b. (iv) に規定する事情
(「登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンライン
ロケーション、またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、取
引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネッ
ト上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引する
ために、当該ドメイン名を使用しているとき」)があったものと解される。
 以上のとおり、本件ドメイン名は、不正の目的で登録されているものと推認される。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「REVITALLASH.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン
名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で
登録または使用されているものと判断する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「REVITALLASH.JP」の登録を申立人に移転
するものとし、主文のとおり裁定する。

  2022年3月22日

  日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
         単独パネリスト    服部誠


別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2022年1月14
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2022年1月14日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2022年1月14日にJPRSに登録情報を照会し、2022年1
  月14日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
  び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2022年1月17日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合し
  ていることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2022年1月21日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続開始を通知した。センターは、2022年1月21日に登録者に
  対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対
  し、手続開始日(2022年1月21日)、答弁書提出期限(2022年2月21日)
  並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者宛電子メール
  送信分については一部が送信不能であった。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2022年2月22
  日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送
  信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  022年3月1日に弁護士 服部 誠を単独パネリストとして指名し、一件書類を電
  子的送信によりパネルに送付した。センターは、2022年3月1日に申立人、登録
  者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定
  予定日(2022年3月22日)を通知した。パネルは、2022年3月8日に公正
  性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2022年3月22日に審理を終了し、裁定を行った。